365日振りにリングに立った川尻達也。いくぶん緊張の面持ちに見える。 1年という長いブランク明けの試合、CB屈指のストライカー相手に川尻が選んだ戦法はテイクダウンだった。外掛け、タックル、徹底的に組み付いてはズリッズリッと引きずり倒すようにアゼレードを組み伏せる。 川尻の息遣いがこころなし荒く感じる。吐き出したいほどに溜め込んだ感情を必死で抑えて平静を保とうとしてるように僕には見えた。楽な相手ではない、でも負けられない相手。ガードの上だろうが、隙間だろうが、打てる限りとにかく殴る、殴る、殴る・・・。 いつもなら積極的にしかけるパスガードもこの日はおとなしめ。ただ目の前にいるアゼレードに1発でも2発でも多くパンチを叩き込もうとしている。 録画した映像を見ているのに自然とぐっと左手を握りしめる自分がいた。どんなに応援していても負ける時は負ける。個人競技である格闘技であるなら尚更。頂点に立てるのは1人だ。もう少し引いた目で見たほうが勝負を楽しめるのかもしれない。それでも川尻だけには理屈じゃなく「負けるな」と120%の感情を傾けてしまう。30過ぎの子持ちのオッサンが何をやってるのかと自分で呆れてしまうが。少なくとも自分の力ではどうにもならない、大きなうねりに巻き込まれ苦しい1年を過ごした川尻に今日だけは勝たせてやりたかった。
KOでも1本勝ちでもなかった。川尻本人も不満の残る内容だったようだ。それでも僕には大晦日決戦の中でどの試合よりも心に残った。必死さがここまで伝わる川尻達也は本当に久しぶりだったから。五味やメレンデスと闘った時「殴り合ってることが楽しくなってしまった」と妙に納得していた川尻は正直あまり好きではなかった。 絶対負けられない試合を向かえた時、川尻が選択したのは自分を支え続けた伝家の宝刀・テイクダウンパウンド。やっぱりクラッシャーにはハンマーのごとき鉄槌を振り下ろす姿が一番似合う。人の最もふさわしい姿が見れるなら悲壮感も悪くない。
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