慎重ながら好機には思い切って踏み込み両腕を叩き込む。1Rのダウン含め何度王者シルビアを後退させたことか。そして幾度となく奪ったテイクダウン。シルビアの長いリーチに遮られながらも愚直なまでにヒジとパウンドを振るう。スタミナが心配されながら、最終5R、再びラッシュを見せる姿に観客が大声援をおくる。終了のゴングがなった瞬間、ほんの数十秒後に新王者として名前を呼び上げられることになるランディーを観客がスタンディングオベーションで迎えた。正直少し泣きました。格闘技を見て感動させられる事は多々あるけれど、ホロっとさせられることはけして多くはない。
誤解を恐れずに言えば、このアメリカMMA界で3本の指に入るスーパースター・ランディー・クートゥアーは技術的にはそれほど特筆したものを持たない選手だと思う。もちろんタックルはうまいし、スタンドもこなし、テイクダウンすれば金網に押し付けての強力な肘打ちもある。ただスタンドだけ見ればミルコのようなスペシャリストと比べれば天と地の差があるし、グランド打撃だってヒョードルの岩をも砕きそうな戦慄のパウンドと比べれば破壊力も回転の速さも歴然だ。極めの技術で言えば彼が極めあぐねたシルビアに対するサイドポジションから勝負をつけられるブラジリアンはそれなりにいるだろう。体だって大きくない。技術的・肉体的な側面からいったらなぜアメリカで彼があんなに人気があるのかわからない?という声も理解できる。
クートゥアーはただ勝った負けたという括りでは語れない選手だ。総合戦績15勝8敗、一見平凡な戦績にも見えてしまう。もちろんこの中に合計4度のUFC王座戴冠があるのだから価値あるものだが、それにしたって約10年の現役生活でクートゥアーほどの人気選手が23戦しかしていないのは意外だ。私などデーターをどうしても気にしてしまうタイプなので23戦して8度も敗れている、しかも負けるときはほとんど1本かKOで壮絶に散る選手がなぜあんなにUFCの象徴のような扱いされるのか少し前までは理解できなかった。
しかし最近、それは「こんな生き方したら男としてカッコいいな」という彼の生き様が求められてるんじゃないか?と思うようになった。
彼は敗れるたび「もう限界だ」「やめたほうがいい」といわれ続けた。でもどんなに圧倒的な敗北を喫しても彼は這い蹲りながら再び闘いの舞台に戻り、結果を残してきた。ワンパターンといわれても愚直に打撃を恐れず前にでるタックルと勇気で何度も何度も向かっていくクートゥアー。そんな姿に皆魅せられてるんじゃないだろうか?ハッキリ言ってドロ臭く、時代遅れのスタイルだ。でもドロ臭くて人間臭い「今どきこんな奴いないよ」という生き方だからむしろ素直に応援したくなるし感動させられるのだと思う。
今回のUFCヘビー級タイトルマッチを見て「UFCのヘビーはレベルが低い」「シルビアがダメすぎる」「セミリタイヤしてたクートゥアーが王者になれるレベル」「ミルコなら楽勝」という声はたくさん出ると思う。まあ大半当たってるとも言えるだろう。ただ個人的には「そんな見方ばっかりしてたらつまんなくないか?」と言いたい。
実績も名声も持った40過ぎの男が、過去の栄光にドロを塗るかもしれないリスクを背負って自分の2周りも大きいチャンピオンに挑み、勝利するなんて早々できることじゃないと思うからだ。
誰が最強なのか、を追い続けることも大切だけどその為だけに折れない心を持つ男が見せる「感動」を見逃すのはもったいない。それは「最強」に負けないくらい大切なことだと思うから。
最後になりますが勝利者インタビューでインタビューアーに「何を言っていいかわからないくらい興奮してる。何か言ってください!」とコメントを求められたクートゥアーが一言
、"Not bad for an old man"
「年寄りも悪くないだろう?」 あの瞬間、世界で一番素敵なオヤジだったはず。