まず完全アウェイであること。UFCを主戦にした時点でこれは当然のことなんだけど、今回はスウィックの地元・ヒューストンということもあってより四面楚歌となっていた。
次にスウィックがUFCにとって期待の新鋭であること。TUF出身ということで顔が知れてるという意味では現王者アンデウソン以上ともいえる。TUFも4〜5弾が行なわれてきたが、実際若手ファイター出身で本戦のチャンピオンクラスと闘えそうな位置まできてるのはウェルターのサンチェスとこのスウィックぐらいというのが現状(ライトでフロリアンがタイトル挑戦してるが当時は層の薄さもあるし、シャークとは力の差があった)。関係者・ファンにとってははやくTUF上がりのチャンピオンを望みたいだろうからスウィックには多大なる期待が寄せられていた。
加えてスウィックが確かな実力者であるということ。UFCではUFNを含め無敗の連勝中であり、王座挑戦経験もあのデビット・ロワゾーも下している。「クイック」の愛称通りモーションの小さいパンチの連射を得意としており、ギロチンもうまい。日本での知名度こそないが、岡見を破ればタイトルマッチが確実な位置にいることでどれだけのものかわかっていただきたい。
岡見が勝利を大きく引き寄せた要因のひとつがスタンドでの間合いを巧みに操ったことだろう。小刻みなフットワークで前後左右に動き、スウィックの距離を消し続けた。岡見は188cmの長身な上に、リーチも長い。スウィックも185cmとほぼ互角ながら拳1つ分くらい岡見のほうがリーチがあるように見える。ラッシュをかけたいスウィックだったが岡見が細かく細かく動く為、なかなか仕掛けることが出来ず手数が少ない展開が続いた。岡見は右のジャブ主体で利き腕のビッグパンチはさほど振らなかった。打ち合いになるより、スタンドはとにかく相手を動かさないように務めたのではないだろうか。しかもただ間合いを取る為に下がるのではなくサイドステップも駆使しながらジャブを放つ為、完全な引き気味という動きではなかったのがポイント。逃げの動きをUFCは厳しく取るからだ。
ここでラッキーだったのはスウィックが序盤極端に慎重になっていたこと。ロワゾー戦のような3R通して何度も仕掛けたパンチのラッシュが見られない。得意のはずのスタンドで岡見のペースに付き合ってしまった。ロワゾーになくて岡見にあるもの、それは力強いテイクダウン力とグランドテクニック。安易に近距離に詰めることによって岡見の差しを警戒したのが原因だろう。
序盤にスウィックの積極的な攻めがなかったおかげでスロースターターな岡見はじっくり相手を見ることが出来た。1R残り1分ほどのところでのテイクダウン成功は理想的な形となり明確な決定打こそなかったが1分間、トップからのパウンドと肘を振るった岡見が初回を取ったことがこの試合では大きかった。
序盤をある意味何もせずに終わってしまったスウィックは2Rに入って本来攻め返さなければならないところだが、踏み込むきっかけがつかめないように見えた。逆に自分らしい動きが出来てる岡見はより積極的にテイクダウンを試み、2度成功。大きなアクションが無い為、どちらもブレイクを命じられたがスウィックに何もさせていないのも事実。結局2度目のブレイク直後、初めてラッシュらしいラッシュを仕掛けたスウィックに何発か有効打をもらい、このRを取られたが、自分の動きが出来てない上に、ボトムポジションを強いられる時間が長かったスウィックのスタミナ消費は激しかったはず。
2つ目のポイント「自分のペースで闘った者とそうでないものの差」がでてくる。
総合の試合では特に顕著に出る部分だが自分のペースで闘えば相手より激しく動いても集中力が持つ。逆に相手にコントロールされるとそれほど動いてなくても心理的不安や呼吸の乱れで急激にスタミナは消費されると私は思う。じっくり見る自分らしい試合ができてる岡見は予想通りの消費しかせず、らしくない動きを続けたスウィックは想像以上に燃料が切れてしまった。お互いイーブンで迎える最終Rなのに両者のコンディションは大きく差があったように感じた。
結局遂に思い腰を上げラッシュをしかけたスウィックだったが、ここを踏ん張った岡見にテイクダウンを許すとグランドで集中力を欠き、あっという間にマウントを奪われ2分以上もパウンド地獄に晒された。
ここで岡見がうまかったのがバックマウントを奪った際、パウンド→スリーパー→パウンド→スリーパーの動きを繰り返したこと。岡見とて終盤疲れが襲ってくる。力のあるパウンドは限られるし、そういった動きを続ければバランスを崩し、リバーサルされる可能性がある。また仕留める為にスリーパーに拘れば失敗した際「サブミッションはタップを奪わない限り評価しない」傾向が強いUFCでせっかくのマウントを評価されない恐れがある。
岡見の選択はスリーパーをあくまで「見せ技」に使い、相手にディフェンスを意識させてはパウンドを叩き込み、また相手がガードすればスリーパーという、揺さぶりだったように思う。これならたとえKOや1本取れなくても終始攻めの動きを見せられるし、なんといっても時間をどんどん経過させることができる。思惑通り、やっとのことでスウィックがリバーサルした時はすでにラスト1分。ダメージとガス欠で息が完全に上がったスウィックを岡見がラバーガードで凌ぎきるには充分だった。
岡見がUFCに参戦以来、私は彼に対して辛かったと思う。敵地で闘い、結果を出していることは最大限に評価してきたつもりだが、どうしてもその攻め手の遅さが気になり、特筆した武器を持つトップグループには一気に飲み込まれるのではないか?と感じていたからだ。
しかし今回のスウィックへの封じ込め作戦を見て、
これが岡見が世界を取る為に選んだスタイルなのではないか?と感じはじめた。
岡見はパワー、体格、フィジカル面で外国人トップと対等に渡り合える逸材。差しあい、テイクダウンに強く、グランドでもポジショニングがこなれてるという優位性を持つ。反面スピードや瞬発力の面では外国勢に劣るのは否めない。
そうなると1,2Rで短期決戦となると打撃のラッシュや瞬間的な動きに秀でる外国勢に負けるが、3Rじっくり相手を弱らせ、終盤勝負を仕掛けるという闘いが自分に合っていると考えたのではないだろうか?
近年中量級で優秀な日本人選手が増え、激しい動きをフルラウンド見せてくれたことで私の感覚が麻痺してたかもしれない。岡見が闘う軽重量級は日本人が世界と選手層の差を見せつけられる階級。世界のトップと同じ動き、戦術を要求するほうが現実的ではなかった。本気でベルトを奪いに渡米しているからこそ人一倍作戦を練り、神経を擦り減らすような闘いを挑んでるんだ、と思うと見る目が変わった気がした。
正直負けると思っていた試合。そんな不利に不利を重ねる試合で今まで見たくても見られない光景を見せてもらった。「ユーシン、オカーミー!」と勝者コールされると鈍〜い感じの重低音のブーイング。敵地で憎まれることは賛辞に等しい。しかも岡見にとってこれがUFC初のPPV登場。今までダークマッチ要員と扱われた男がスター街道を着実に歩んできた人気者を重要な試合で引きずり下ろした。
メディアがどう評価するかなんて期待してないが、岡見選手にはこの快挙に胸を張ってほしい。困難で誰も踏み込めなかった未開の道を岡見は今、確実に歩んでいる。願わくば気恥ずかしそうにサムライパフォーマンスを行なう、この垢抜けない大器にもう1つ上の夢を見せてほしい。